2011年1月26日

マーケティング不要

「マーケティング担当の副社長などはいません。デザインと技術を最優先していますから。お客が車を本当に気に入ってくれたら、自然に我々の宣伝をしてくれます。」
アメリカの電気自動車ベンチャー、テスラ・モーターズの会長兼CEOのイーロン・マスク氏の言葉だ。
1月22日朝日新聞土曜版で彼が取り上げられ、「マーケティング(市場調査)はどのようにしていますか。」という質問の答えとして掲載されたものだ。マーケティングは市場調査ではないが、これは一般読者にわかりやすくするための記者の注釈だろうし、イーロン・マスク氏はちゃんと本来のマーケティングと捉えてインタビューに答えていると思う。
昔から、商品力とマーケティング力(営業力を含む)は両輪と言われてきた。(営業力も加えて三位一体の重要性を説く考え方もあるが)。いくらマーケティングが頑張っても商品力が弱ければ長続きしないし、いい商品でもそれが人に伝わって商品と買う人との接点がなければ売れはしない。
けれども、商品力を最優先する、というこの考え方は、これからの時代、メーカーの主流になっていくのかもしれない。そして、マーケティングという考え方自体もその概念も、今変わろうとしているのだ。確かにクチコミの効果は高いし、ネットの普及で誰もが意見を発信できる時代になり、お客が宣伝してくれるのはその通りだ。今までの広告代理店というビジネススキームはどんどん崩れていき、新しい形への生まれ変わりが必要だ。その新しい形とはなんなのか。広告代理店はどこも、今それを探しているのだろう。

2011年1月20日

誌面のガチャガチャ

10代から20歳前後の女の子に支持される雑誌の誌面を見ると、雑多な情報がてんこ盛りだ。小さな写真付きで小さな文字でぎっしり説明されているものが、1ページの中に10個も20個もぎっしり埋められている。その隙間にはキラキラ星があったりハートが飛んでいたりして、余白など作らない。誌面全体がガチャガチャしている。
私が見ると、それだけでもはや読む気がしない。たとえ豊富な情報を求めるとしても、私はすっきりした誌面を好むし、ある程度の余白がないと落ち着かない。写真もできればわかりやすく大きく見せてほしいと思う。
ガチャガチャしている誌面は、その世代を対象にしている雑誌の特徴とも言える。限られた雑誌だけでなく複数の雑誌がそういう誌面構成をしている。情報量が多い分、掲載している写真も小さいものが多いので、写真の質などあまりこだわらない。素人が携帯で撮影したような写真でも、場合によっては充分なのだ。
いくら流行りとはいえ、これじゃああんまりに情報が薄いので、そういう雑誌の中であえてしっかり見せる作りで、すっきりしたデザイン構成にしたところ、読者からの反響が大幅に落ちたという。見やすくすることで反応が落ちるというのは、私から見ればとても意外ではあるが、読者にとっては、すっきりしたページなど、読む気もしないということなのだろう。
意識の変化と言うのは、こういうところにも如実に表れている。そういう若い女の子は、今だけでなく、これから先もそういう志向が続いて10年後、20年後には上の世代向けの誌面もそんな風にガチャガチャになっていくのだろうか。それともその世代固有の特徴なのだろうか・・・・。それはもう少し時間がたってみないとわからないが、私個人はガチャガチャであふれてしまったらちょっと嫌な気がする。

2011年1月11日

リアルなコミュニケーションの行く末

自分ひとりの見識など狭く浅いので、専門家に意見を聞きたいことがしばしば起きる。その専門家と面識があればいいが、そうでないケースも少なくない。かつては人を通じて紹介してもらったり、自ら専門家の連絡先を調べて電話をしたり手紙を書き、意見を聞くにあたってこちらの立場や事情の説明をしに出かけたものである。意見を聞くのはそれからだ。けれども面識がないどころか、どんな専門家がおられるのかのメドも立たない場合は、もはやお手上げだ。
しかしここ10年ですっかり事情は変わった。インターネットのおかげで、基礎知識などなくてもどんな専門家がいるのかを簡単に調べることができる。しかもメールアドレスさえわかれば、こちらの自己紹介から事情説明、依頼内容まで、すべてメールで完了することもできる。Twitterを活用する人も少なくないので、どんなに著名な人であっても、人によっては簡単に直接コンタクトすることもできる時代になった。
多くの著書を出版し、テレビでも活躍する某業界の評論家ですら、「原稿依頼などは、その仕事の依頼から完了するまですべてメールのやりとりだけで、会わないどころか、電話でさえついに一度も話もしないまま終わるケースが少なくない。メール1本だけで済まそうとする。」と嘆いていた。それが初めての仕事依頼でもそうだというから驚いてしまう。しかも原稿を送っても返事がないなど、コミュニケーションの簡素化は明らかに進んでいる。デジタル化のせいで、人とのコミュニケーションのあり方自体が変わってしまったようだ。
仕事を依頼するまでのプロセス、企画段階の検討から発注までのプロセス等々、プロセスが大きく変わったのだ。検討する段階はほぼWeb上で行われ、その後の依頼(発注)から納品までがメールで完結するわけだから、Web上のコミュニケーション力とメールのコミュニケーション力について高いスキルが要求されるとも言える。実際に会って話すといったリアルなコミュニケーション力がなくとも完結するわけで、そのためかそういうスキルの劣る人は確実に増えている気がする。リアルなコミュニケーションは、今後珍しくなっていくのだろうか。リアルなコミュニケーションスキルなどもはや不要な能力になっていくのかもしれないし、逆に希少な分、リアルなコミュニケーションの付加価値が大きくなっていくようになるのかもしれない。

2011年1月5日

2011年始動

私事では喪中でもあったため、今年は遠くに出かけることもなく、ひっそりと新年を迎えた。そのおかげで、好きな箱根駅伝をじっくりテレビ観戦。駅伝の感動は毎年当然のことではあるが、それに加えて嬉しかったのは、駅伝中継番組のCMだ。普段ならCMを狙って席を立つのに、CMだけはしっかり見たいと思ったのだからすごい。広告スポンサーの狙い通りだ(笑)。
特にサッポロビールの「大人エレベーター」、そして箱根駅伝オリジナルの6種類はとてもいいものだった。サッポロビールのサイト上でもそれぞれ見られるものの、「大人エレベーター」は25歳の白鳳出演分の第6弾しか見ることができないのは残念だ。年齢をエレベーターに見立て、20代後半の妻夫木君がエレベーターに乗り、いろんなフロアで降りてその年の魅力ある大人に出会い、話を聞くという「大人エレベーター」。最高齢は仲代達矢だが、その年齢の深い味わいを感じさせた。
ここのところ、作る人も見る人も心に余裕がないせいか、それともコスト削減のせいか、テレビはとてもつまらなかった。CMも適当に作っているな、と思ってしまうようなものも少なくなかった。しかし、箱根駅伝のサッポロビールのCMを見て、純粋に感動したし、元気が出てきた。「乾杯をもっとおいしく」というサッポロビールのキャッチフレーズに心から素直に共感した。
箱根駅伝のその他スポンサーのCMもいいものが多かったように思う。クリエイターの智恵と努力がうかがえる。実際に内容がよかったこともあるだろうし、サッポロビール効果で私自身が他のCMにも注目したくなったのかもしれない。
これが、クリエイティブが再び輝き始める予兆ならば、広告業界に関わる者としてとても嬉しい。クリエイティブは人の心を元気にするはずだし、結果、社会を元気にしていくだろう。
2011年、今日から通常通りの仕事が始まった。また時代が新しくなっていく。
これからの元気な社会のために、ほんの少しでも力になれる仕事ができればと願っている。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。