2011年1月11日

リアルなコミュニケーションの行く末

自分ひとりの見識など狭く浅いので、専門家に意見を聞きたいことがしばしば起きる。その専門家と面識があればいいが、そうでないケースも少なくない。かつては人を通じて紹介してもらったり、自ら専門家の連絡先を調べて電話をしたり手紙を書き、意見を聞くにあたってこちらの立場や事情の説明をしに出かけたものである。意見を聞くのはそれからだ。けれども面識がないどころか、どんな専門家がおられるのかのメドも立たない場合は、もはやお手上げだ。
しかしここ10年ですっかり事情は変わった。インターネットのおかげで、基礎知識などなくてもどんな専門家がいるのかを簡単に調べることができる。しかもメールアドレスさえわかれば、こちらの自己紹介から事情説明、依頼内容まで、すべてメールで完了することもできる。Twitterを活用する人も少なくないので、どんなに著名な人であっても、人によっては簡単に直接コンタクトすることもできる時代になった。
多くの著書を出版し、テレビでも活躍する某業界の評論家ですら、「原稿依頼などは、その仕事の依頼から完了するまですべてメールのやりとりだけで、会わないどころか、電話でさえついに一度も話もしないまま終わるケースが少なくない。メール1本だけで済まそうとする。」と嘆いていた。それが初めての仕事依頼でもそうだというから驚いてしまう。しかも原稿を送っても返事がないなど、コミュニケーションの簡素化は明らかに進んでいる。デジタル化のせいで、人とのコミュニケーションのあり方自体が変わってしまったようだ。
仕事を依頼するまでのプロセス、企画段階の検討から発注までのプロセス等々、プロセスが大きく変わったのだ。検討する段階はほぼWeb上で行われ、その後の依頼(発注)から納品までがメールで完結するわけだから、Web上のコミュニケーション力とメールのコミュニケーション力について高いスキルが要求されるとも言える。実際に会って話すといったリアルなコミュニケーション力がなくとも完結するわけで、そのためかそういうスキルの劣る人は確実に増えている気がする。リアルなコミュニケーションは、今後珍しくなっていくのだろうか。リアルなコミュニケーションスキルなどもはや不要な能力になっていくのかもしれないし、逆に希少な分、リアルなコミュニケーションの付加価値が大きくなっていくようになるのかもしれない。