指導しない、叱らない上司が増えている時代ではあるが、それでも部下を教育する重要性はしばしば言われることだ。組織の維持発展のためには、必要だし重要なことだ。ユニクロの社長、柳井さんはそれを「上司力」と呼び、部下一人一人の思いや考え方を想像し、部下の長所を生かしてチームで力を発揮していくことためにも、部下が主役になる環境を作ってあげることような上司をになれとエッセイで書いている。
かつて私は「人間力」と言っていたことがあるが、後輩を指導する視点に立てば、それは「上司力」なのかな、などと考えていた時、広告業界で働く27歳の女子が、「上司は、男なら子どものいる人がいい。」と力説したのを聞いて驚いた。「子どものいる人」と「子どものいない人」・・・彼女にとっては部下の育て方が違うと言うのだ。
「子どものいる人」は子どもを育てた経験がある分、「できない」事実を受け入れた上で教えようとする。「父親」として育てる経験をしたせいか、子どものいない人に比べて許容範囲が大きく、部下は失敗を恐れず安心して働ける。一方、子どもがいない男である上司は、「できない」ことがそもそも理解しにくい。上司にとって基本的なことで部下にとってわからないことなどが起きると、「そんなことも知らないの?」というリアクションが目立つと言うのだ。そのくせ、仕事を進める段階ではなかなか部下にまかせず、権限委譲も小出しにしていく。そういう上司の何気ない言葉は部下を傷つけ、部下は上司に指示を仰いだり指導を受けようと言う気も失せていく。そして部下は上司の指示だけをただこなすのが、傷つかないし楽でいい、という考えになっていくのだという。
私自身は子どもがいないので、これはイタイ言葉だと思った。彼女は、「女は元々母性があるせいか、子どもがいてもいなくてもそんなに違いを感じないけど、男は明らかに違う」と言っていたが、これは子どもがいない私への気遣いがそう言わせたに違いない。
また、「子どものいない人」は自分とは異質な個性を認めにくいせいか、丁寧に教えてくれない気がすると言う。
部下を育てることも、上司に育ててもらうことも、営業することも、すべてはコミュニケーション。相手の立場や思い、考え方を想像し、思いやることで、うまくいくかどうかが決まるのは間違いない。私が指導を受けていた頃は、「子どものいない男」である上司はそもそも数としては少なかったので、そんなことは考えたこともなかった。
時代が変わり、少子化や離婚で子どものいない父親が増え、私自身も年齢やキャリアを重ねて指導されるよりはする側に回った。私自身、部下の育てられる方の気持ちへの想像力を少し欠いているかもしれない。