昨年秋から手がけていた書籍「からだにおいしい魚の便利帳 全国お魚マップ&万能レシピ」(高橋書店)が、今月に入ってようやく発行された。
2年前に発行され、引き続き好評な「からだにおいしい魚の便利帳」の続編にあたる。前書は、この種の書籍としては異例の発行部数(現段階で20万部超)で、本書の売れ行きも期待されるところだ。
ただ、私にとっては別の思いもある。
私自身は、社会に出て間もない頃の仕事のひとつとして、魚食普及や魚の啓蒙という仕事があった。もはや四半世紀前のことだが、消費者の魚ばなれとともに冷蔵・冷凍技術が進歩して海外からの輸入が進み、日本の漁業・水産業の振興を進めてきた国にとっては大問題な時期だった。私はその仕事に10年近く関わったが、消費者の魚ばなれは止まらなかった。魚食普及のための予算も年々大幅に縮小され、私もその仕事から離れるようになった。
当時と比べて、魚の流通も消費のしかたも、今は大きく変わっている。
それでも、日常の料理を主に担当する主婦にとっては、魚は面倒な食材であるという意識は、当時も今もあまり変わりはない。むしろ益々その意識は進んでいる。一方で、より本物、よりおいしいものを求め、食べること自体を楽しむ文化は、完全に定着してきた。
去年の段階で既に前書は売れてはいたものの、本書では「自分では魚を捌くのは面倒だと思うけれどおいしい魚を食べたい」という人のために、より読者の裾野を広げることを目指して、秋頃に企画が始まった。私個人としては、かつて手がけた魚食普及につながる思いもあり、高いモチベーションでスタートした。
全国の魚周辺情報をできるだけ幅広く面白く、料理をしない人でも楽しめるように・・・私が実際に接触した先は500件近くにまでなり、なかなか大変な労力が始まった。もう少しで終わりそうだ、という時に、あの東日本大震災があった。
水産関係なだけに、被害を受けたところは少なくなかった。このまま進めていいものか、5月になってから被災地を訪ね、協力先の一部をお訪ねしたりしながら、発行自体もどうなるか先が見えない時間が続いた。
まだ水揚げが難しいものもある。工場が被災して製造できない加工品もある。
けれども必ず復興するから、掲載されたらそれを励みにするから、という声を寄せてくれた方が多くいらっしゃった。
水産物なので、例え被災地でなくても間接的に影響を受けているところもある。
だから私は、本書発行に当たってはさまざまな思いを隠せない。
被災地の食材を改めて大事に思うこと、まだ難しいものは静かに待つこと、被災して頑張っていらっしゃる方々のことを忘れず見続けること・・・。本書を手に取ってくださる方々とも、そういう思いを共有できればと願わずにはいられない。巻末には協力先の連絡先も出ているので、問い合わせられるし、おいしいもの探しをしてほしい。
この書籍の発行が、水産業界の方々の励みの一端になり、そして、魚食普及に少しでもつながればと思う。