大震災は、「命」を何度も何度も考える機会になった。「広告」は命に関わらないので、私自身は「生きる上で必要でないことを仕事にしている」という思いを抱かざるを得なかった。
大震災以降の1か月、広告ストップの動きは大きなものだった。
被災した企業はもとより、部品の供給が止まったことで商品が製造できなくなったり、品薄になったりする企業は、広告する意味がなくなるので当然のことながら広告はストップする。仕方がないことだ。
けれども、例え震災で大きな影響を受けていなくても「こういう状況の中で社会が広告を受け入れないムードがあるから広告は自粛する」という企業が意外と存在したのも事実だ。ACをはじめ、企業のCMも含めて、テレビのCMに対する視聴者からのクレームは大変なものであったし、世の中のムードというものが広告を受け入れにくい状況にあった。目立ったことはできるだけしない方がいいのでは・・・・そいう企業の思いの結果だと思う。
観光産業への影響も大きかった。震災に加えて、原発問題もあったため、栃木県日光は前年対比95%ダウン、という驚くべき数字になった。日光の場合は修学旅行需要が無視できないが、学校側と言うよりは保護者からの強い要望でキャンセルせざるを得ない状況にあったという。
1か月が過ぎ、ここにきてようやく社会のムードが変わりつつある。
テレビはACの割合が少しづつ減ってきて、一般企業のCMが戻りつつある。サントリーの「上を向いて歩こう」を歌った震災後バージョンのCMは視聴者の共感を誘ったし、評価も高かった。テレビに広告を戻すための大きな貢献をした。キャンセルになっていたゴールデンウイークの旅行予約も戻りつつある。被災地からも、「自粛をしないでほしい」という声がメディアで語られるようになってきたのも大きいだろう。
広告(やエンターテインメント)は、確かに生きるために絶対必要なものではないかもしれない。けれども、ないよりはあった方がいいものであって、それは社会のムードを作ったり、心を豊かにしたり明るくしたりするものであるはずだ。広告業界は、今、大変厳しい状況にあるのは確かだが、ここは我慢我慢。明るいムードに向かっていくために、今、智恵をしぼり続けなければならない(と、自分自身に何度も言う日々だ)。